「お前もあん中に入りたいだろう?」
記憶にある限りじゃ、彼にそう言われたのは最初で最後だ。
喜んで中に入っても良かったけど、オレは笑って断ることにした。
カウンターはオレにとっての境界線。
その中から出るコトを選んだときから、その中に戻ろうなんて考えることはやめにした。
入るときに望んだ意識以上に、出るときに刻んだ意識はより強く濃いものにしたつもりだから。
結局のところ、彼と同じ道を歩むことも同じ位置に立つこともなかったわけだけど、それで良かったと実のところホッとしている。
彼を上に持つにはオレには問題が多いし、オレを下に持つのにも彼には問題が多いから、上手くいくとはどう考えても思えないから。
カウンターっていう一枚板を挟んで向かい合う、そんな距離感がちょうどいい。
たとえ表面上にその板はなくとも、彼とオレとの間にはそういうものがこれから先もあり続けるのだと思う。
違う世界に立っている、そう実感させてくれる距離をこれから先も失いたくないとオレは願う。
あの境界線を忘れることなく心に刻みたいと。
あの古ぼけた一枚板をいつまでも。
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