チェーンコーヒー店で

「兄ちゃん、サングラス、カッコいいな」

突然の言葉に面食らいつつも、カップから目を上げて斜向かいの席に視線をやると、そこにはよく日に焼けたオールバックの男。
黒地にビッシリと刺繍の入ったスカジャンに淡色のスラックスという井出達は、かつて彼がヤンチャしていた時のそれのままだと思われ、人の良さそうな目尻には服装の割りには年を重ねた証拠の深い皺が走る。
この手の輩にはよく声をかけられるので、あまり苦手意識はない。

一言二言を交わして、純粋に会話を楽しんでみる。
彼の言葉に虚飾はなく、時に自嘲の混じった色すらあるが、そこに同情は感じないし同調できる部分もない。
前歯のない彼の言葉は切れが悪く、オレの声と同様に聞き取りづらく、互いに聞き返すことで会話は寸断されるが、そんぐらいの速度感が、仕事前の昂った気持ちを静めるのにはちょうどいい。

「ツレが軍資金稼ぎに打ってるのを待ってんだけどよー。なかなか帰ってこなくってさ」
彼の目の前に置かれたカップに目をやると、そこに満たされていたのは珈琲ではなく薄珈琲色をした水。
おそらくは2杯目を頼む金がなく水を飲んでいるのだろうが、そんなことはどうでもいい。

「バカ勝ちしたらメシでも食わせてくださいよ」
自分のカップが空になったのを合図に、思い切り愛想良くそう言うと、オレは彼の言葉を待たずに席を立つ。
この邂逅に意味などないが、人相の悪いオッサンがお互いを覚えていたらそれだけでも悪くない。

声をかけるどころか目を合わせようともしない周囲の一般客より、お互いの時間を使ってくだらない会話で笑える彼の方がオレとは近しい。
オレや彼が世間的にどんな評価をされていようと、少なくとも互いの言葉を交わしたその瞬間は確実に対等だったと思うわけで…。

先日、兄貴分がオレに語った、「ボロ布のようにたたずむホームレスと自分たちに差がない」って言葉の意味に少し似ているのかもしれない。
自動ドアが開いて、店内に秋の風が流れ込む瞬間にそう思った。

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sakura

桜

春の色。
参道に咲く華。
雨が上がれば季節が移る。

up

瓶の群れ

旧いアメリカンロック。
深い琥珀色をした苦い炭酸水。
自分を取り戻すために必要な時間。

JPN cat day

麦酒

乾杯
嬌声
猫の日の為に

gradation

掛かる月

また明日。
夕飯の香り。
落下する夜。

overpass

歩道橋

深夜零時の散歩道
風は藍色
夜の音は白

carved seal

灯り

刻みたい。
記憶に、気持ちに、感情に。
少しでも、自分の痕を。

蒼月

月を探すのが好き
青空に架かる昼の白い月も
凍てついた夜空に蒼く灯る月も

新年イヴ

カフェカウンター

乾杯。
去年と今年と来年の間に。
シンプルに、気まぐれに、ええかっこしいで。

硝子色の朝

カラフェの日本酒

いただきます。
ごちそうさま。
食卓の温度。

rain,night,tomorrow

雨の路面

雨音。
夜の声。
明日、晴れるかなぁ。

candles

箱の中の蝋燭


「自分らしく、したいことをすればいい」
それは実に無責任なアドバイスで、 Details »

stand

川

好みの立ち位置というのが誰しもあると思うのです。
2番手でいるのが良かったり、真ん中が心地よかったり、浮いてるか沈んでるかが良かったり、 Details »

yellow magic

キイロ

Eagle,Shark,Panther.
カレーが好き。
ヒーローの色はキイロ。

maybe rain

信号機

本を開く。
言葉を紡ぐ。
雨の日の為に。

cherry

櫻色

感謝と哀悼と。
生と死の交錯する日。
列に並ぶのはもう少し先。